近畿大学、筋芽細胞の増殖維持・分化抑制に「ビトロネクチン」が関与することを解明

近畿大学大学院農学研究科の片山ともか博士後期課程3年、農学部生物機能科学科の岡村大治准教授らの研究グループは、血清中の細胞外マトリクスタンパク質「ビトロネクチン」が筋芽細胞の分化を抑制しつつ増殖を促進させることを発見しました。さらに、ビトロネクチンとLIFを組み合わせることで、血清不要で筋芽細胞を長期間培養できる新たな技術を開発しました。

概要

近畿大学の研究グループは、血清中に含まれる細胞外マトリクスタンパク質「ビトロネクチン」が筋芽細胞の分化を抑制し、増殖を維持・促進させることを明らかにしました。また、ビトロネクチンとLIFを組み合わせることで、血清を含まない条件下でも筋芽細胞を長期間増殖可能であることを示し、筋再生医療や培養肉分野での低コスト・高再現性な細胞培養技術への応用が期待されています。

  • ビトロネクチン:筋芽細胞の分化を抑制し、細胞増殖を維持・促進
  • ビトロネクチン+LIF:血清不要で筋芽細胞の長期間増殖を実現
  • 期待される応用:筋再生医療、培養肉、サルコペニア研究など

筋芽細胞の増殖・分化制御におけるビトロネクチンの役割

筋肉は筋芽細胞が増殖し、その後融合・分化することで形成されます。この増殖と分化の切り替えは、発生、再生、老化において重要な現象であり、再生医療や培養肉技術における中心的な課題です。従来、筋芽細胞の分化は培養液中の成長因子減少により誘導されると考えられてきましたが、細胞外マトリクス成分の関与は不明瞭でした。本研究では、血清中に豊富に含まれる細胞外マトリクスタンパク質「ビトロネクチン」に着目し、筋芽細胞への影響を解析しました。その結果、ビトロネクチンが筋芽細胞の分化を強く抑制し、細胞増殖を維持・促進することが明らかになりました。この作用はマウス、ラット、ヒト、ニワトリ胚由来筋芽細胞で共通して確認され、3次元培養(スフェロイド培養)でも同様の効果を示しました。

さらに、ビトロネクチンとLIFを組み合わせることで、血清を含まない条件下でも筋芽細胞を長期間増殖可能であることを示しました。これにより、従来必要とされてきたウシ胎児血清(FBS)への依存を低減し、低コストで科学的再現性の高い細胞培養技術の構築につながることが期待されます。FBSにはビトロネクチンが豊富に含まれる一方、筋分化誘導に使われる血清にはビトロネクチンがほとんど含まれていないことも判明しました。

新たな無血清培養系の構築とその意義

研究グループは、以前開発した無血清培地「DA-X培地」を基盤に、ビトロネクチンとLIFを組み合わせた新たな無血清培養系を構築しました。この条件下では、高価な成長因子を添加しなくても筋芽細胞は未分化状態を維持したまま増殖可能であり、培養後も筋分化能を保持していました。これは、従来の「成長因子中心」の細胞培養概念に対し、「細胞外環境そのものを制御する」という新しい視点を提示するものです。

ただし、本研究での無血清培養条件における筋芽細胞の増殖速度は、依然として血清含有培地には及んでいません。今後は、細胞外マトリクスや糖鎖、生理活性物質などを組み合わせることで、より高効率な筋芽細胞増殖を実現する次世代型無血清培養技術の開発を進めていく予定です。本研究成果は、細胞外マトリクスが単なる「細胞の足場」ではなく、「細胞の状態そのものを積極的に制御する環境因子」であることを示しており、筋再生医療、培養肉、サルコペニア研究などにおける細胞大量培養技術への応用が期待されます。

論文掲載情報

掲載誌:Biomaterials Science(インパクトファクター:5.7@2025)
論文名:Vitronectin establishes a differentiation-restrictive extracellular microenvironment that sustains myoblast proliferation across species.(ビトロネクチンは、筋芽細胞の増殖を維持する分化抑制的な細胞外微小環境を形成する)
著者:片山ともか1、松本杏実2、高澤陽香2、端野百華2、實海翔2、千木雄太3、岡村大治1,2*
*責任著者
所属:1 近畿大学大学院農学研究科、2 近畿大学農学部生物機能科学科、3 Independent Researcher
URL :https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42206994/
DOI :10.1039/D6BM00313C

まとめ

近畿大学の研究グループは、細胞外マトリクスタンパク質「ビトロネクチン」が筋芽細胞の分化を抑制し増殖を促進することを発見し、ビトロネクチンとLIFを組み合わせることで血清不要で筋芽細胞を長期間培養できる技術を開発しました。この成果は、筋再生医療や培養肉分野における低コスト・高再現性な細胞培養技術の構築に貢献すると期待されます。

関連リンク

https://www.kindai.ac.jp/meikan/1359-okamura-daiji.html

https://www.kindai.ac.jp/agriculture/

関連記事